MTRL Taipei

–2020

–華山1914文創園区,台北市,台湾

 


 

-MTRL Taipei

-設計・施工監理 / 甲斐貴大 (studio archē)

-マネジメント / Tim Wong, Pin-hua Chen, 岩倉慧 (Loftwork)

-木材コーディネーション・家具製作ディレクション / 岩岡孝太郎・門井慈子 (ヒダクマ)

-施工 / 甲斐貴大 (studio archē)・Tim Wong, PaulYun Yeh (Loftwork)

-協賛 / 株式会社ASNOVA

 


構成のダイアグラム。柱にからみつく要素は、全て分解可能なディテールでつくられている。

 


[概要]

 「MTRL Taipei」は台北の華山1914文創園区に位置する、展示やイベントスペースを併せ持ったオープンオフィスである。華山1914文創園区は、日本が台湾を統治していた時代に建てられた酒造工場跡地をリノベーションした文化施設で、現在はセレクトショップや映画館、ギャラリーが立ち並び、台北の文化発信地としてにぎわっている。今回敷地となったのは、統治時代にお酒の貯蔵庫として使用されていた赤いレンガ造の建物で、これらは台湾の重要文化財に指定されている。

 クライアントに求められたのは、「オフィス」と「イベントスペース」の2つであったが、働き方もイベントの形式も変わり続ける中で、単純に何かの用途のためのスペースをつくることは、この場所で起こりうるふるまいを縛り付けてしまうように感じた。オフィスとしてしつらえた空間では執務以上のことは起こりづらいし、かといって何もないオープンスペースではよりしろが無さすぎてアプローチしづらい。用途は規定せずに、名前のないスペースをつくり、使い手が用途を更新し続けることができる状態をつくることはできないかと考えた。

 

[くさび式足場と3Dモデリングによる設計]

 また、敷地の条件として、「重要文化財である建物に直接施工しないこと」「常設の構造物は構造計算を行い事前に申請すること」が挙げられた。今回は、仮設足場に用いられるくさび式足場を使用し、仮設構造物として華山に申請することで、駆体にアンカーを打つことなく、複層の空間をつくることが可能となった。くさび式足場の柱には、450mmピッチで手すりのくさびを打ち込むためのポケットがついていて、このポケットを積極的に転用することで、「構造体のための柱」という柱本来の意味を剥ぎ取り、「機能をとってつけるためのよりしろ」として扱っている。今回は、使用するくさび式足場のパーツ、床や壁の仕上げ材をすべてディテールレベルで3Dモデリングし、設計から制作・施工に至るまで、図面を介さずに3Dモデルで管理している。

 

[空間のつくられ方をつくること]

 床や階段、カウンターやテーブル(としてふるまっている水平面)は、仕様によって用途を規定しないよう、下地・仕上げ材・塗装がすべて同じディテールで仕上げられている。また、柱と壁の取り合いや、柱と踏板、踏板と床仕上げ材の取り合いはすべてあらわしで納められていて、アドホックな空間の成り立ち方を示している。くさび式足場の柱-手すり、手すり-踏板がそれぞれ分解可能であるように、それらに取り付く要素もすべて分解可能なディテールでつくられている。例えば、柱のポケットに合わせてコの字型に欠き取られた壁材は無垢材のくさびで固定されていて、またコンセントパーツは任意のポケットに差し込むことで延長コードのように使用することができる。これらの部材も、加工する際の遊び寸法まで考慮してモデル化してあるため、展示のために壁の材料を変えたり、照明や収納のためのパーツを使い手がデザインして出力することができる。足場による構造体を既存(=前提)の空間として捉え、既存の空間を転用するための事例を示すことで、使い手と空間の距離を近づけることができないかと考えた。

 


 


photo / Hans Huang, Wan Chun Ho (Houth)

Yummy Sake Collective

–2019

–店舗改修

–東京都渋谷区代官山

 


 

-Yummy Sake Collective

-設計 / 服部大祐(Schenk Hattori) 甲斐貴大(studio archē)

-制作・施工 / studio archē

 


 

テイスティングスペースを併設した新しい日本酒ブランドのコミュニティ形成の場として選ばれたのは、代官山駅から程近い、これまでに幾度も改修が繰り返されてきた築60年の木造建築であった。

正面道路から建物の奥に向かって上がってゆく傾斜や段差、二階床の不陸や壁面の歪みなどはそのままに、奥行きのある二層の空間を、ブランドのコンセプトから引用した黒と白で塗り分けていった。モノの持つ素材感を残しながら上塗りすることで、建物の持つ時間の蓄積が自然と立ち現れる。

水平・垂直の無い歪んだモノトーンの空間の中に異物として挿入された黄金の長い水平天板が、床面の高さ変化と呼応して、躙口・バーカウンター・ダイニングテーブル・ローテーブルとその役目を変えながら、外部の土間空間から二階の客席部分までを緩やかに繋いでゆく。

 

 

 


photo / Kohga Tamamura